第238回定期演奏会
ウィーンの伝統を伝える指揮者・ピアニスト
シュテファン・ヴラダー インタビュー

9月、日本センチュリー交響楽団は、第238回定期演奏会の指揮とピアノにオーストリアのシュテファン・ヴラダーを迎えます。1965年、ウィーン出身のヴラダーは19歳でベートーヴェン国際ピアノ・コンクール(1985)に優勝し、以来、ピアニストとしてクラウディオ・アバド、ネヴィル・マリナー、小澤征爾らの指揮者をはじめ、数多くのオーケストラと共演を重ねています。また指揮者としても2008年からウィーン室内管弦楽団の首席指揮者・芸術監督を務めるほか、ウィーン交響楽団、バンベルク交響楽団などを指揮。音楽の都の伝統を現代に受け継ぐ存在として国際的な活躍を続けています。2019-20シーズンにはドイツ、リューベック歌劇場の音楽総監督に就任が決定。来日も数多いヴラダーですが、今回はセンチュリーにとってもまさに「待望の」と言える初共演となります。プログラムの聴きどころを彼自身が語ってくれました。

ウィーンで最も古い歴史をもつベートーヴェン国際ピアノ・コンクールは、過去に内田光子なども第1位を受賞しており、ファイナルはウィーン楽友協会ホールで行われる。写真はロドルフォ・レオーネが優勝した2017年。
コンクールWebサイト https://beethoven-comp.at
20世紀の偉大な指揮者フルトヴェングラーも音楽監督に名を連ねるドイツの名門リューベック歌劇場での演奏シーン。2019-20シーズンから音楽総監督を務める。2013〜17年の音楽総監督はセンチュリーでも首席客演指揮者を務めた沼尻竜典。

音楽家として-それもクラシックの演奏家として-ウィーンに生まれ育つということはとても幸せなことのように思えます。さまざまな音楽家がこの都市を目指し、ここで才能を開花させていますね。

ウィーンが最も伝統的な音楽の都であることは誰もが知るところです。これはウィーンの街のいたるところで感じることができます。モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト…多くの著名な音楽家が住み、活動した建物に出会うことができます。このような偉大な作曲家や音楽家から伝統が受け継がれ、この街で作られる音楽に大きな影響を与えています。実は今回、センチュリーと一緒に演奏する3人の作曲家は実際にはウィーン出身ではありません。モーツァルトはザルツブルク、ベートーヴェンはボン、スッペはスプリット(現在のクロアチア)出身です。しかし彼らはいずれもウィーンでの活動を通して、音楽の伝統に影響を及ぼした偉大な作曲家たちだと言えると思います。

家主との喧嘩や他の住人による騒音を理由にウィーンで80回以上も引っ越しをしたベートーヴェン。もっとも長く住んだこのパスクァラティハウスの4階からはウィーン市街を見渡す素晴らしい眺望が広がり、この場所で序曲「エグモント」や交響曲第7番の草稿が作られた。

モーツァルトのピアノ協奏曲第23番は、ヴラダーさんとセンチュリーの共演を、観客に強く印象つけるものとなるかも知れません。ウィーンを代表するような作品ですが、特に弾き振りで演奏されるとなると“音楽の呼吸”がより新鮮なものになるような気がします。

モーツァルトの23番は彼の最も有名なコンチェルトと言って良いと思います。オーボエの代わりにクラリネットが使用されていて、トランペットとティンパニがありません。こうした独特のオーケストレーションのために、とてもやわらかくまろやかな響きとなり、特にフィナーレにおいて叙情的な部分と楽しげなパッセージの結びつきが生まれています。今回、私はより室内楽的なアプローチに基づいて、弾き振りします。
緩徐楽章ではモーツァルトのもっともすばらしいひらめきのひとつをお楽しみいただけることでしょう。

フランス国立図書館に所蔵されているモーツァルト作曲ピアノ協奏曲第23番自筆譜。

そしてベートーヴェンの交響曲第7番。ピアノ・ソナタやコンチェルトを通して、ベートーヴェンはヴラダーさんが最も情熱を注いでいる音楽家であるように思えます。

ベートーヴェン第7番は私のお気に入りの作品のひとつです。主題の扱い方はまさに革命的と言えるでしょう。第1楽章の導入部ですでにベートーヴェンは明らかに新しい道を進んでいます!これにはとても楽しく明るいダンスのようなアレグロが続きます(ワーグナーは“神聖なダンス”と呼んでいます)。しかしながらこの作品のポイントとして、伝統的なゆったりとした楽章ではなく葬送行進曲の雰囲気を持ったアレグレットにも注目してみてください。そして偉大な交響曲のフィナーレは、かつてなかったほどの輝かしさで締め括られるのです。

ありがとうございます。私たちも初めての共演を楽しみにしています。お客さまにメッセージをいただけますか?

すでに40回以上日本を訪れていますが、そのたびに、日本の聴衆の皆さまのクラシック音楽に対する温かい想いを感じています。日本有数のホールとして知られるザ・シンフォニーホールでお会いできることを、心から楽しみにしています。

第238回定期演奏会

2019年9月26日(木)

19:00開演(18:00開場)

私は2009年秋からの約3年間、ドイツの首都ベルリンに留学していました。
高校進学とともに上京し、その頃から周りの先生に「海外に行ってみたら?海外が向いているかもしれない」といったお言葉を頂くことが多く、留学はずっと想い続けていた夢でした。しかしながら優柔不断で心配性のわたしは、勢いに任せての行動がなかなか出来ず、今思えば少し遠回りしたかなと感じるときもありましたが、後の恩師であるベルリン芸術大学の教授マーク・ゴトーニ氏との運命的な出会いから師事するまでは、一瞬でことが進みました。
(話すと長くなるので省略。笑)
その中で、今も心に響き続ける言葉たちがあります。


「頑張るな」

大学でのレッスンは基本的に週に1回1時間半のマンツーマンレッスン。その頃はまだ門下生が少なくて、月1でクラスの試演会もありラッキーでした。マークは私に「基礎はもう日本で充分確立してきている。だからこれから何か新しいことを教えるのではなく、あなたの癖を直していきたい。ほどいていきたい」、そして「頑張るな」と毎回のレッスンで言われ続けました。
頑張らないってどういうこと?頑張らないということは気持ちが入らないのではないか?など、最初は疑問と自問自答の日々。「楽譜を読まないで、音楽をしなさい」「もっと歌うだけじゃなくて喋るように」もちろんレッスンは日本語ではなくドイツ語です。毎回レッスン内容を録音し、電子辞書を片手に復習してはまたレッスンの繰り返しでした。

日本では滅多に行かなかった様々な演奏会に足を運びながら、五感で感じたことは、どの奏者も共通して「脱力」しているということでした。
そして気づきました。
頑張らないこと=脱力することなんだと!!!

恩師のマーク・ゴトー二氏と
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団コンサートマスターの樫本大進さんと

「もっと自由に」「リスクを犯せ」

恩師のマーク氏は人柄も素晴らしく、生徒にも親切で寛大だったので、海外での音楽セミナーやコンクールには積極的に参加させてもらえました。中でも、マークの推薦により参加したイタリアのモンテプルチアーノで開催されたセミナーで、マークの先生であるアナ・チュマチェンコ女史のレッスンと室内楽の共演が叶った事は一生の宝物になっています。アナ女史は、東京芸術大学時代の恩師の先生でもあった為、ずっと陰ながら憧れ続けていたヴァイオリニストでした。彼女の音楽は果てしなく自由。「自分の持っているものに満足せず、それを最大限に生かし活用しなさい。ツールを求めなさい」どこまでも自由でありながら説得力のあるレッスンに、とてつもない感銘を受けました。

セミナーで出会った音楽家たち
参加生徒全員で演奏

もう一人の恩師はイタリア・シエナのキジアーナ音楽院セミナーで出会ったボリス・ベルキン氏。実はベルキン氏とは、小学校5年生の時に故アイザック・スターン氏のレッスンを受けた宮崎国際音楽祭で一緒に写真を撮っていましたが、もちろん彼の記憶にはありませんでした。笑
とにかく厳格。でも本当は優しくて、ずっと見ていたいくらいハンサムな先生!(でも怖いから目は合わせられない。笑)

ベルキンクラスでは、レッスンの長さや回数に決まりはなく、同じ値段の講習会費を支払っていても本人の意欲次第という、日本では有り得ない不平等なものでした。私は、少しでも元を取りたい!得をしたいという生粋の関西人気質を発揮し、かなり熱心に通いました。
「日本人は真面目だ。もっとリスクを犯せ!」
机をバン!と叩かれ怒鳴られるようなレッスン。でも、この言葉は音楽をする上でどんなに大切か。何かが自分の中で弾けた瞬間でした。

イケメンすぎるベルキン氏と。(携帯の写真は小学校5年生時の2ショット!笑)
レッスン風景
キジアーナ音楽院のすぐ側にあるカンポ広場

これらの大切な言葉たちは、音楽に行き詰まったり本番前に心を落ち着かせたい時のために、「心のノート」と題したノートに書き残しています。

現在2冊目突入中!心のノートなので内容は秘密。真面目だなぁわたし!笑

オーケストラに入団して丸2年が経ちました。
時が過ぎるのはあっという間で、今は想像をはるかに超える多忙さです。
目の前の譜読みに追われる日々で終わりがないですが、初めましての作品もたくさんあり、他の楽器の特色や人柄に触れる貴重な時間を過ごしています。
留学で得たかけがえのない音楽的材料をこれからも生かしながら、成長していけたらと思います。

後藤龍伸(日本センチュリー交響楽団コンサートマスター)
松浦奈々(日本センチュリー交響楽団コンサートマスター)
荒井英治(日本センチュリー交響楽団首席客演コンサートマスター)

9月21日(土)に行われる豊中名曲シリーズVol.11。指揮に日本の古楽界を代表するチェロ奏者、指揮者である鈴木秀美を迎え、センチュリーの首席客演コンサートマスターである荒井英治がソリストとして登場するこの回はそれだけでも話題十分ですが、ここにも注目していただきたい、というポイントがもう1つ。この日、コンサートマスターを務めるのは後藤龍伸。センチュリーが誇る、後藤、荒井の両コンサートマスターが初めて共演を果すのです。そこで今回はこのコンサートマスターという役割について、お話したいと思います。

コンマス席に座る後藤龍伸(第235回定期演奏会)
コンマス席に座る荒井英治とサイドに座る松浦奈々(豊中名曲シリーズVol.10)

コンサートマスターってどんな仕事なの?と思われる方もいるかも知れません。コンサートマスター(以下コンマス)とは一言で表現するなら、オーケストラの演奏に関わるすべての責任者であるということが言えるでしょう。練習から本番を通じて、指揮者から与えられた指示をオーケストラに浸透させ、演奏を最善の形に導くのがコンマスの仕事です。この役職は一般に、第1ヴァイオリンの首席奏者(ステージでは指揮者の左、客席側)が担当します。ステージでも指揮者の意図を補完しながら、指揮だけでは伝わりにくい音の出だしや微妙なニュアンスについて指示を出すなど、常にオーケストラをリードする存在です。楽団員の目も指揮者とほぼ同じようにコンマスに向けられています。また、指揮者の指示のない部分では弦楽器のボウイング(弓使い)のアップ・ダウンを統一するなど、オーケストラの響きに関わる部分でも、大きな役割を担っています。

現在、センチュリーのコンマスを務めるのは後藤龍伸、松浦奈々、荒井英治の3人。コンサートではこのうちの1名が当日のコンマスとして着席します。演奏を始める前には楽団員を代表してお客さまに一礼、チューニングの後に指揮者を迎えるという流れは、多くの方におなじみの光景かも知れません。その日のコンマスによってオーケストラの雰囲気が違ったものに見えるのも面白いところです。センチュリーの響きの要(かなめ)ともいえる3人について、望月正樹楽団長は次のように語っています。

「センチュリーが10型の小さめのサイズでありながら、あれだけの豊かな響きが出せるというのはやはり3人のコンマスが、“存在感のある演奏をする”人だからだろうと思います。前から大きな音が来ることで、オーケストラの中のプレイヤーはとても安心感を持つことができるんですね。それ(安心感)がなければどうしても豊かな響きは生まれないですから。荒井さんは統率力があって、全体を力強く引っ張っていくタイプ。後藤さんは冷静に全体を見渡してコントロールしていくタイプではないかと思います。松浦さんはその中間にある感じですが、とにかくヴァイオリンが上手で音に説得力がある。後藤さん、荒井さんのどちらかがコンマスという時に、松浦さんにアシスタント・コンサートマスターとして入ってもらう場合もあります。三者三様ですが、この人がコンマスの時にこんな音が出る、というよりは、この3人の個性が現在のセンチュリーの音を支えていると理解していただいた方がわかり易いかと思います」

コンマス席に座る松浦奈々(第229回定期演奏会)

後藤龍伸、松浦奈々、荒井英治は、それぞれがソロ活動においても高く評価されているヴァイオリニストです。センチュリーのステージにおいても荒井英治のソロによるコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲(2018年10月 指揮:キンボー・イシイ コンサートマスター:松浦奈々)がすでに実現していますし、今回の豊中名曲シリーズでの後藤、荒井の共演はまたひとつ、センチュリーの魅力を拓くものと言えるかも知れません。なお、今回、ソリストに荒井英治を指名したのは指揮者、鈴木秀美自身。そして「鈴木とならシューマンの協奏曲を」と望んだのが荒井英治と伝えられています。彼らの信頼と絆を受け止めつつ、万全の体制でオーケストラを統率するコンサートマスター、後藤龍伸。当日はこのうちの誰が欠けても成り立たない、密度の高い音楽が生まれそうな予感があります。

2018年10月に行われた第229回定期演奏会

注目のトピックス画像 ⓒs.yamamoto

センチュリー豊中名曲シリーズVol.11

2019年9月21日(土)

15:00開演(14:15開場)

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