CENTURY WEB MAGAZINE

センチュリーウェブマガジン vol.3

注目の公演

いずみ定期演奏会No.36 ハイドンマラソン

真夏に贈るセンチュリーのハイドン。
ソリストには首席コントラバス奏者、村田和幸を迎え、
ディッタースドルフのコントラバス協奏曲第1番を。

 8月11日(金・祝)に行われるいずみ定期演奏会No.36では、ハイドン中期の作品を中心にお届けします。1766年、大貴族エステルハージ家の宮廷楽長に就任したハイドンですが、前後してエステルハージ家の新しい宮殿、エステルハーザが完成し、ここを拠点に彼の多忙な日々が始まります。1770年代も半ばになると交響曲の作曲に加え、宮廷で上演されるオペラの作曲や他の作曲家たちの作品の指揮なども求められるようになり、その忙しさにはさらに拍車がかかって行きます。今回演奏されるのは、そんな時期のハイドンの姿を反映した作品と言えるでしょう。

エステルハーザ玄関エステルハーザ玄関
ニコラウス・ヨーゼフ侯爵ニコラウス・ヨーゼフ侯爵

 交響曲第60番「うっかり者」はエステルハーザで上演された同名の戯曲のためにハイドンが劇付随音楽を作曲し、それを元に書かれた交響曲です。6楽章構成というのは当時の人々をかなり驚かせたはずですが、これもハイドンがわざと仕掛けた「うっかり」かも知れません。ハ長調の第6楽章では何とヴァイオリンが調弦をやり直すという場面も盛り込まれています。ハイドンのユーモアの感覚に迫るセンチュリーの演奏をお楽しみください。交響曲第54番はハイドンの後期を予感させる堂々たる規模の作品。各楽器が密やかな会話を交わすような、アダージョ・アッサイ(きわめて緩やかに)の指示を持つ、第2楽章が印象的です。以上の2曲は1774年頃に書かれた作品とされています。

「うっかり者」の戯曲を書いたジャン=フランソワ・ルニャール「うっかり者」の戯曲を書いた
ジャン=フランソワ・ルニャール

 交響曲第78番は、イギリス交響曲の最後の作品です。1782年に書かれました。Vol.1でも触れた通り、この時期のハイドンは当主のニコラウス・ヨーゼフ侯爵から音楽の独占権を解かれており(1779)、楽譜の出版が自由に行えるようになりました。このことは彼の作風にも影響を与えたと言われています。ハ短調の調性を取るこの作品では暗さと明るさの対比や推移が実に巧みに描き出されていて、やはりこの調性の作品に傑作を残したモーツァルトやベートーヴェンなどへの影響も指摘されています。

 なおハイドンの交響曲がウィーンで、初めて正式に出版されたのは1782年、第73番「狩」でした。またロンドンでは一足早く1781年に第74番が「序曲第1番」として出版され、第70、76、77、78(本作)、80、81番と続いていきます。こうしてハイドンの人気はヨーロッパの各都市でさらに高まっていくのですが、実はハイドンの楽譜の出版は、1779年以前にも行われていて、印刷譜や筆写譜の多くが非正規に流通(当時は筆写譜が主流)していました。ですからヨーゼフ公爵の判断の背景にはハイドンの著作権を明確にして、こうした「海賊版」を防止しようという思惑が働いていたのではないか、と考えられています。

エステルハージ家の狩りの様子エステルハージ家の狩りの様子

 今回のソリストは首席コントラバス奏者の村田和幸。ディッタースドルフのコントラバス交響曲第1番を演奏します。カール・ディッタース・フォン・ディッタースドルフ(1739-99)はハイドンと同時代に主にウィーンで活躍した作曲家、ヴァイオリニスト。もともとの名前はカール・ディッタースで、1773年に貴族となった時に、“ディッタースドルフ”の姓を名乗ることが許されました。2曲のコントラバス協奏曲のほか、生前には多くのオペラ、交響曲を発表しています。もちろん、ハイドンとも交流があり、エステルハーザでは彼のオペラもたびたび上演されていました。往時の栄華を伝える深い響きを、名手村田の演奏でたっぷりとお聴きください。

いずみホール
首席コントラバス奏者の村田和幸
注(※1)エステルハーザ:エステルハージ家の夏の離宮として建設された宮殿。1766年までには主だった部分が完成したとされる。126の居室に加え、教会や歌劇場、当時人気を博した人形芝居の劇場まで備えており、その豪壮さにはオーストリアの女帝マリア・テレジアも驚いたと伝えられる。
広大な敷地が広がるエステルハーザ広大な敷地が広がるエステルハーザ

35_izumi_A4_omote

いずみ定期演奏会No.36
ハイドンマラソン

2017年8月11日(金・祝) 19:00開演 (18:00開場)

  • チケット購入
  • 詳細を見る

My Favorite Things 〜私のお気に入り〜

永松 祐子永松 祐子(ヴィオラ)「音楽と半世紀」

 長いお付き合いね~と楽器と話す。
 子供の頃から思い返すと40年以上…上手くいかず泣いちゃって楽器が涙でベタベタ、あんたの顔も見たくないっ!ってケースに仕舞いっぱなしの時もあったね。親よりも友達よりも長い時間を共(友)にしている。そして私より遥かに長生きしている。

 あなたはどこの山の木だったの?何人の手をたどって私のところに来たの? 楽器屋さんはあなたの体調を気づかって色々面倒を見てくれるけど、木材だった頃から知っているわけじゃない。一つの楽器になるのにたくさんの人が手を尽くしてくださって、動物の命もいただいて此処にある。こうなるとただ(の)モノではないな…とか思いは巡る。

 日々私はスコアを読み、指揮者のイメージ(指揮者が欲しいイメージ)を想像し、木管楽器との対話を楽しみ、ベースやチェロに囲まれて楽しく演奏している。けれど少し俯瞰してみると、素晴らしいと思いませんか!何百年も前から一人として同じ人間ではない奏者が受け継いだ楽器で、オーケストラをはじめ様々な場所で演奏を続けてきた。そして、これからも続く「音楽」が今まさに私の手元にあるなんて。

永松祐子

 コンサートを聴きに来て下さるお客様も、じつは様々なドラマやその生活に関わる事情を抱えていらっしゃる。そんなお客様が、また演奏を聴きに来たいなぁと思ってくださるような演奏をしたいと思っています。

 いつも側にいてくれる猫にも「ちっとも上手くならんね」なんて顔をされたり。でも写真の顔は「まあ・・いい感じ?」なのか。これから死ぬまで何曲弾けるのかわからないけれど、色々な作曲家と出逢って話ができればいいなと夢が膨らみます。

楽譜と猫譜読みを始める…
楽器ケースと猫まーだまだ、がんばれー!楽器をしまうには早いニャー。

坂倉 健 坂倉 健(コントラバス)
「音にこだわる僕のスピーカー」

 僕は意外と(?)こだわるタチなので、お気に入りのものがたくさんあって悩んだのですが、愛用のスピーカーを紹介したいと思います。中学生の時に親に懇願して買ってもらった、当時の西ドイツブラウン社製「L500」というスピーカーに始まって40数年。懐具合が許す範囲でいろんなスピーカーを使ってきましたが、今はアメリカJBL社製「L200 Studio Master」が一番のお気に入りです。

 このスピーカーは1972年に発売され、当時の「4325 Studio Monitor」というとても優れたプロ用スタジオモニターの後継機種を開発する際に、エンクロージャー(箱)のデザインを家庭のリビングにもマッチするように作り変えて民生用としたものです。「音楽の録音現場での厳しい要求に応えたプロ用モニターの音を、家庭に持ち込むことを可能にする」というのが当時の謳い文句。現にこの民生用スピーカーをスタジオモニターとして採用していた日本のレコード会社もあったそうで、まぁソコソコ優秀なスピーカーなのです。

スピーカー&LPジャケット

 写真のLPジャケット(CDじゃないぜ!)と比べても分かるように、かなり大きなもので、デザインも時代遅れですが、僕が演奏するコントラバスがそうであるように、振動部分がデカイ方がリアルな低音が出るだろう!というアマチュア的な思い込みで選びました。今の時代、小さくてもパワフルなスピーカーシステムだってお金さえ出せば手に入るけど、2台で畳一枚分のスペースを占拠するほど大きな箱のリアルな低音の魅力はなかなか捨てられません。

 そんなお気に入りのスピーカーは、真空管アンプで鳴らすと、Jazzなどはすぐそこで演奏しているような臨場感で鳴ってくれます。クラシックの音源は…僕のセッティングが未熟なのか、いつも聴いているオーケストラの生音と比較しちゃうからか、今ひとつ満足できていません。オーディオに精通した方がチェックしたら、まだまだ改良の余地はあるでしょうけど、しょせん録音再生は「ライブの代替品」的な言い訳と諦めが入り交じった結論でお茶を濁しています。

CDジャケット、ジョージ・ムラーツの「Bottom Line」このスピーカーで聴いたらシビれるおすすめ音源その1。チェコ出身のジャズベーシスト、ジョージ・ムラーツの「Bottom Line」
CDジャケット、マイルス・デイビスのジャズ・クインテットその2は、粒ぞろいの名演が揃った愛すべき1枚「WORKIN’」。ピアノにはレッド・ガーランドも参加した、マイルス・デイビスのジャズ・クインテット

 最近は、どうせ原音再生は無理なんだからと、捨てるはずだったスピーカーユニットを使って自作した、インチキ球型スピーカーが思いのほかいい雰囲気で鳴るので、そっちに浮気したりして。

球型スピーカー

 あまりオーディオ主体で音を追求しすぎると、本来の音楽が楽しめなくなってしまい本末転倒状態に落ち入ってしまいますが、いろんなスピーカーを取っ替え引っ替え繋ぎ変えて聴き比べするのはとても楽しいので、この遊びはこれからも続きそうです。

 最後に一言。それでもヤッパリ生音には勝てねぇ〜。
 皆さん、センチュリーの生音を聴きに、ぜひコンサートに来てくださいね。

注目のトピックス

北口大輔チェロリサイタル
チェロ協奏曲「ミワモキホアプポグンカマネ」世界初演!?

 8月23日(水)、豊中市立文化芸術センターでは、日本センチュリー交響楽団リサイタルシリーズVol.2として、首席チェロ奏者北口大輔のリサイタルが行われます。プログラムはバッハのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ第3番ト短調、そしてプーランクのチェロ・ソナタほか。北口大輔ならではの深い響きが、18世紀、バロックの深い様式美を湛えたバッハと20世紀の洒脱な色彩感に満ちたプーランクを、魅力いっぱいに聴かせてくれることでしょう。さて、ここで注目していただきたいのが、“ほか”の2曲。『チェロとピアノのためのインプロヴィゼーション』とチェロ協奏曲『ミワモキホアプポグンカマネ』です。これはいったいどんな作品なのかわかりますか?ということで、今回はそのお話をさせていただきたいと思います。

 日本センチュリー交響楽団は2014年から、NPO法人「スマイルスタイル」とともに若者たちの就労支援プロジェクト「The Work」に取り組んでいます。これは現在、就職していない大学卒業者や就職活動中の学生たちに、センチュリーがプロデュースする音楽創作プログラムとハローライフがプロデュースする就活プログラムを通して、社会人としての基礎力を身につけてもらおうという試み。実はチェロ協奏曲「ミワモキホアプポグンカマネ」は、この音楽創作プログラムの中から生まれた作品なのです。作曲はセンチュリーのコミュニティ・プログラム・ディレクターでこの音楽創作プログラムのナビゲーターを務める作曲家の野村誠さん。そこには今年、6回に渡ってオーケストラハウスで行われたワークショップでの、若者たちとの交流から生まれたさまざまなアイデアが活かされています。

 第1回目のワークショップが行われたのは、4月25日。参加したのはハローライフに登録している若者たちとセンチュリーの楽団員の計15名ほど。彼らの自由なディスカッションを野村さんがリードしながら、音楽(の卵)が組み立てられていきます。「今、頭に浮かんだ言葉を言ってみよう!」。「みわもきほ」「あぷぽ」「ぐん」「かまね」。参加者がちょっと不安げに口にするのは、一見、意味のない言葉のかたまり。チェロ協奏曲『ミワモキホアプポグンカマネ』の原型はこんな風にでき上がりました。別の回ではその言葉がどんな気持ちを表しているかを話し合ったり、その気持ちを実際に楽器を手にして音で表現してみたり。北口も、4回目、5回目に参加して、そんな“気持ちを音にする作業”に取り組みました。実はこうした創作の現場を共有することで、若者たちは少しずつ柔軟なコミュニケーション能力を培っています。そしてセンチュリーのメンバーたちも就労支援という現代社会のリアリティに触れたことで、コンサートとはまた違った、社会へと開かれたオーケストラのあり方を追求しているのです。このワークショップで、若者たちとセンチュリーの楽団員は言わば対等の関係。この関係から生み出されたひとつの成果が、チェロ協奏曲『ミワモキホアプポグンカマネ』なのです。

 就労支援への取り組みについて野村さんは、次のように話しています。
 「細かい結果は今後になると思いますが、手応えははっきりと感じています。たとえば社会的に重要視されるスキルとしては “コミュニケーション能力” がありますよね。僕らは必ずしもその開発だけを目的としているのではないのですが、音楽をする、という行いの中には人と合わせるためにアイコンタクトしなくてはならない、とか、注意深くまわりの音を聴かなくてはならないとか、あるいは指揮者を置かないアンサンブルでは誰かが合図を出さなくてはならないとか、いろんな形で人との関わりを求められる部分がもともとあって、参加している人たちはセンチュリーの楽団員と一緒にそれを経験することで、自然にコミュニケーションの力を身につけていくのだと思います。僕ら自身もまた、音楽自体にそういった力があることに気づかされながら取り組んでいる感じでしょうか」。

 そして北口もまた、演奏家としての実感を語っています。
 「音って、その人の心が素直に出てくるんですよ。楽器を持つのは初めての人も多いんですが、僕は技術の向こう側にあるものを聴こうと努めています。そうすると、その人の見た目じゃなくて、内面にあるものがはっきりと伝わって来る。一見おとなしそうな人が、すごく派手な音を求めていたり、逆に派手な感じな人が静かできれいなイメージを持っていたり。音を出しているうちにそういうことがわかるようになります。音楽を通して、心が通い合うんだと思いますね」

 今回、北口大輔のリサイタルでは『チェロとピアノのためのインプロヴィゼーション』で野村さんもピアノを演奏します。またチェロ協奏曲『ミワモキホアプポグンカマネ』にはもちろんセンチュリーのメンバーがオーケストラパートで参加します。当日はワークショップに参加した若者たちも聴きに来てくれる予定。ぜひ、皆さんもご一緒に、このユニークな協奏曲の《世界初演》に立ち会っていただきたいと思います。

左から北口大輔(首席チェロ奏者)、コミュニティ・プログラム・ディレクターの野村誠さん、コミュニティ・プログラム・マネージャーの柿塚拓真。
注(※1)野村誠 作曲家、鍵盤ハーモニカ奏者、ピアニスト、日本センチュリー交響楽団コミュニティ・プログラム・ディレクター。社会と音楽の関わりを考える多彩な活動を通してさまざまな実績を持つ。2006年にはNHK教育テレビの番組『あいのて』で、音楽・音響監修を務め、自ら“赤のあいのてさん”として出演。

35_izumi_A4_omote

日本センチュリー交響楽団
リサイタルシリーズ Vol.2
北口大輔チェロリサイタル

2017年8月23日(水) 19:00開演 (18:30開場)

  • チケット購入
  • 詳細を見る

INDEX
  • ●注目の公演
     いずみ定期演奏会No.36
     真夏のセンチュリー・ハイドン!
     村田和幸が贈る
     コントラバス協奏曲とともに。
  • ●My Favorite Things
     〜私のお気に入り〜

     永松 祐子(ヴィオラ)
     「音楽と半世紀」
  •  坂倉 健(コントラバス)
     「音にこだわる僕のスピーカー」
  • ●注目のトピックス
     北口大輔チェロリサイタル
     世界初演も!?
     就労支援プロジェクトThe Work
     とのコラボレーション
Back Number

ページの先頭へ戻る